第6章

<場面転換>

リリカはフレンドメニューからみずきを含むフレンド全員を監視していた。これから起こる事を考えると、自然に頬が緩む。リリカは元々デスゲームが好きで、自分もいつか参加してみたいと考えていたのだ。そんな彼女にとって今回の黒猫デスゲームは絶好のチャンスだった。

リリカはみずき以外のフレンドが入浴や食事などスマホを見れない状況である事を確認してから、みずきと接触を図った。

リリカ「つかささん死んじゃいましたねっ!」

みずき「何ですの…。」

リリカ「そんなに睨まないでくださーい!ちょっと私とお話しませんかっ?」

リリカはコンビニ袋に入った2個のハーゲンダッツを掲げ、輝くような笑顔を浮かべた。

近所の公園。ベンチに座った2人の少女。

リリカに渡されたハーゲンダッツを握りしめるみずきの手は、小さく震えていた。

リリカ「怖いんですかっ?」

みずき「え…?」

リリカ「つかささんを殺した事がですかっ?」

みずき「なっ…何を仰ってますの…!私は…」

リリカ「それともー…」

みずきは思わずリリカを突き飛ばそうとしたが、変わらずに笑顔を浮かべるリリカは彼女の手首を掴んで言った。

リリカ「リリカに殺される事がですかっ?」

(激しい水音BGM)瞬間、リリカのハーゲンダッツカップから湧き出す奔流。身体を吹き飛ばすような猛烈な水圧。しかしリリカは決してみずきの手首を離さなかった。

(ゴポゴポ…BGM)リリカの手を振りほどこうと必死にもがいていたみずきの腕の力が徐々に弱まり、力なく水に流されて行く。やがてその手が完全に動かなくなると、リリカは無感情に呟いた。

リリカ「こんな感じなんですね。」

リリカ「人を殺すのって。」

(みずき❌イラスト)

<場面転換>

血圧計はルールを読み直していた。頭の回転の速い彼女はとある可能性に気付いていた。

「5.クエスト対象となる黒猫が複数いる場合は、どちらか一方の黒猫が殺害されればクエスト達成となります。両方の殺害であっても罪に問われない権利は保証致しますが、賞金額は倍にはなりません。」

血圧計「片方の黒猫が死ぬ事がクエスト達成条件ならばパターンは3つ。みったんに僕またはリリカちゃんの片方が殺されること。みったんに僕達2人とも殺されること。…そして、僕とリリカちゃんが殺し合うこと。」

血圧計「つまり、リリカちゃんを殺せば確実に僕は生き延びる事ができるって事…なんだよね…。」

自分が助かる可能性に気付いていながら血圧計が選んだ武器はぴこぴこはんまー。それは彼女の気持ちの迷いがそのまま表れているような武器だった。血圧計が手に持ったぴこぴこはんまーをぴこっ(ぴこっBGM)と鳴らしたその時、リリカがやって来た。

リリカ「血圧計さん心配してましたっ!みったんさん来てないですかっ?」

血圧計「来てないよ。」

リリカ「あのあの、私達2人とも次のターゲットじゃないですかっ!私怖くってっ!」

血圧計「うん…。わかるよ…。」

リリカ「一緒に過ごしてれば少し安心かなって思うんですけどっ!」

血圧計「…。」

リリカ「良かったらアイスでもどうですかっ?頭が冷えるかもしれませーん!アイスだけにっ!」

リリカはハーゲンダッツを取り出すと血圧計に微笑みかけた。

ハーゲンダッツがリリカの望んだ武器である事は、フレンドメニューからリアルタイムでみずき殺害を見ていた者しか知り得ない。奇襲にはぴったりの武器だった。

血圧計「一箇所に固まっていたら2人とも同時に殺されちゃうかもしれないよ?」

リリカ「大丈夫ですっ!そんな心配ないんですよっ!」

リリカ「リリカが血圧計さんもみったんさんも殺しちゃうんですから⭐︎」

リリカが動き出したその時。突如爆音が鳴り響いた。

いきなり襲いかかってきた音波は烈しく空気を振動させる。訳もわからないままに2人の少女の肉体は限界を迎え、掻き消えて行った。

<場面転換>

自由な共和国の揺るぎ無い同盟を

偉大なルーシは永遠に結びつけた

人民の意思によって建設された

団結した強力なソビエト同盟万歳!

讃えられて在れ、自由な我らが祖国よ

民族友好の頼もしい砦よ!

レーニンの党ーーー人民の力は

我々を共産主義の勝利へと導く…♪(ソ連風BGM)

音波となって血圧計とリリカを襲ったのは、みったんの歌うソ連国家であった。

みったんにはひとかけらの悪意もなかった。みったんは歌の練習をしていただけなのである。最近の彼女のマイブームがソ連国家なのだ。ソ連国旗を振り回し熱唱するみったん。

彼女は覚えていなかった。

黒猫デスゲーム開始直後に希望する武器を聞かれた時に、なんとなく「歌」と入力していた事を。

みったんの心は晴れやかだった。最後の一節まで歌い終えたみったんは、心地良い達成感を胸に、その場を後にした。(ピコーンBGM)

(血圧計・リリカ❌イラスト)

<場面転換>

みみぃは苦しんでいた。どうして友達を殺さなければいけないのか。こんな理不尽なことどうしても飲み込めない。でも…。

「4.権利保有者が権利を破棄する場合には、本人に加え、二等親までにあたる本人の家族を全て殺害します。」

みみぃ「おばあちゃん…。」

自分を育ててくれた祖母の顔が頭から消えない。しかし祖母と友達の命を天秤にかける事などできない。命を天秤にかけてはならない。そう考えていた。だから武器を望まなかった。しかし、彼女にとってそれは綺麗事でしかなかったようだ。

みみぃは考えることを止めた。涙を乱暴に拭って立ち上がる。その辺に置いてあったボールペンを握りしめ、みったんの元へ向かった。

ソ連国旗とみったんの後ろ姿を遠目に見ると、みみぃは背後から奇襲をかける。

みったんに向けて振り下ろされたボールペンが切り裂いたのは赤い旗だけだった。(切り裂く音BGM)

みみぃ「あはは…。当たらなかった…。」

なぜか安心したような気持ちでみみぃが運命を受け入れようとしたその時、みったんの身体が傾いだ。咄嗟に抱きかかえるが、みったんは力なくぐったりとしている。

みみぃ「みったん!?みったん!?」

みったん「うぅ…。」

みみぃ「みったんに当たってたの!?怪我したの!?」

みったん「傷が…。」

みみぃ「うん…うん…どこを怪我したの!?」

みったん「ソ連の名誉に…。」

ソ連国旗はソ連の名誉そのもの。そこに受けた傷は大きかった。みったんは最期の力で敬礼のポーズを取り、そのまま静かに目を閉じ動かなくなった。

みみぃ「え…ええーっ!?」

(みったん❌イラスト)

<場面転換>

「ごめんね、私のために、死んで。」(ナイフで刺す音BGM)

みみぃが背後から少女の声を聞くのと同時に、脇腹に鋭い熱を感じた。ナイフを抜き取られると同時に温かい血液が地面にぽたぽたと点を作り、やがて赤い水溜りが広がって行った。

みみぃ「LaLa…ちゃ…」

振り向いて相手の少女の名を呼ぶが、少女は首を横に振った。

LaLa「のいだよ💜」(LaLaとのいのイラスト交互に点滅)

のいが去った後には、マジックで黒く塗り潰されたみみぃの生徒手帳が残されていた。(→→→私が学生設定でなければ「マジックで顔写真を黒く塗り潰されたみみぃの免許証が残されていた。」)

みみぃは薄れる意識の中で、荒れる前のつかさのコミュのとあるコメント欄を思い出していた。

のい「のいの事も見て?。」(できれば文章のイラスト?)

シンプルで印象的なそのコメントを気に入った誰かが真似をして、流れに乗った誰かがまた真似をして。つかさくんへの「○○の事も見て?。」コメントがいくつも並んで続いた事があった。最初にコメントをしたのいちゃんって子が…LaLaちゃんだった…んだ…

みっちーさん…に…伝え…(水(血)の音BGM)

(みみぃ❌イラスト)